「服。」
 そう言ってがガイに向けてその平を上にして手を伸ばしたのは、学校が終わり自室に帰った直後だった。
「…え?」
 ガイはの言った言葉に首を傾げる。
「服、脱いで。」
 はそんなガイはお構いなしに口調を強めると、伸ばした手をさらに近付けた。ガイが短く悲鳴をあげて後退する。
「…ちょっ、!なななななにをっ!」
「だから服を脱ぎなさいって。」
「なんでっ!!」
 既に顔が紅潮しつつあるガイに、はさらりと言ってのける。
「洗濯するから。」








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「――、これ、キツい。」
 の父親の服を身に纏ったガイが遠慮がちに言う。
 は振り返りガイを見ると、その格好を見て、口を押さえて噴き出した。
「…なっ、笑わなくてもっ!」
「…だっ、て…っ!」
 ズボンは完全に足首が見え、本来しまいきれるはずのシャツはズボンにしまいきれずに飛び出、さらに「ガイ」がそんな格好――スーツ――をしている事実と相俟り、にとって今のガイの格好は笑えるものでしかなくなっていた。
「あなた見た目は完全にガイなのにっ!そんな微妙な格好してるだなんてっ!」
 すごくウケる!とはそのうちしゃがみ込んで床をバシバシと叩き始めてしまうのではないかという勢いで腹を抱えて笑う。
 一方ガイはなんともいえない表情でそんなを見て、なにか文句を言おうにも言えずに飲み込んだ。
「…服が乾くまででいいんだよな。」
 そして部屋に干されている自分の服を見上げる。
「……あぁー久しぶりに笑った…。」
 目尻に涙を浮かべながらは顔を上げてガイを見ると、またその格好に笑い出す。


「…もっ、もう笑わないから…、」
 しばらく経ってようやく笑いのおさまったは、息も絶え絶えに顔を上げる。
「…なんだか微妙な気持ちだよ。」
「…格好も、ね。」
 軽く返し、も洗濯し終わった服を見上げる。
「…にしても、他人の服を手で洗うのなんて初めて。」
 そして言った。
「洗濯機が使えたらもっと綺麗になったんだろうけど、ごめんね。さすがにそれは危険だから。」
 親は夕飯の買い出しで出かけて居なかったが、洗濯機をまわすと時間がかかって危険だったのだ。
「全然構わないよ。わざわざ洗ってくれただけでも感謝さ。」
 ありがとう、とガイはお礼を言い、
「……って、洗濯機…?」
 そして見知らぬ単語に反応し、眉をひそめた。
「ああっ、別に気にしないで!」
 は慌てて両手を振る。先日の二の舞は避けたいと思ったからだった。
「……。」
 ガイは気にはなったが追及することはせず、話題を切り換えようと頭を巡らす。
「…ああ、そういえば、この服は、キミのお父さんのものだろう?いいのかい?勝手に借りてしまって。」
「ん?ああ、大丈夫よ。押し入れから引っ張り出してきた季節違いのだから、問題ない。」
「…そうか…。」
 そしてはガイを見て、
「問題があるのは、あなたのその格好……っ、」
 思い出したように言い、また笑い出した。
 ガイはそんなを見て、
「あはは…、」
 力なく笑う。