「――…寝られない…。」
呟き、身体を起こしたのはガイだった。
は眠ろう眠ろうと意識して目を閉じていた中でその呟きと身体を起こす音が聞こえ、これは暇を潰す好機と身を起こした。そしてガイを見る。
「…すまない、起こしてしまったかい?」
ベッドの上に寝ていたはずの部屋の主が身体を起こしたのに気付き、ガイは申し訳なさそうにに尋ねた。
「ううん。私も寝られなかったから。」
あなたのせいじゃないのよ、とは言い、尋ねる。
「寝られないの?」
「ああ、…なんでだろう。」
のそのふとした質問に、ガイはそれを切っ掛けに考えることを始める。
「気持ちが高ぶってるからとか。」
「……そうかもしれない。」
「あ、やっぱり?」
は自分の予想が的中したことににやりとガイを見る。
「……でもその理由は――、」
ガイは呟き、を見た。
**
真夜中、休日。それでもガイが眠れない中眠ろうと努力するよりは前。
「起きて。起きてってば。」
の抑え気味の声がガイの意識を呼び戻そうとしていた。
「ねえ起きてよ!」
この馬鹿!と声の大きさがほんの少しだけ上がると、ガイは低く唸って身動ぎをした。
「……。」
そしてガイを起こそうとしていた声がやむ。
しばらくの静寂、後、
「……大丈夫よね。」
まるで自分に言い聞かせるような呟きが聞こえ、それに少し遅れて薄くはない冊子のようなものがガイの頭を襲った。
「ッ!」
痛みではなく驚きにガイは呻く。そして目を開けると、すぐ側にが座っていた。手になにか書かれている本を持って。
「――……!!」
ガイは一瞬叫んでしまいそうになるが、喉から誕生した声が口から出る直前にの提示したルールを思い出し、口を押さえて後ずさって叫ぶことをしなかった。それでも身体はみっともなく震える。
「偉い。」
はおよそ二十代の男に言うようではない言葉をガイに言い、まるで自分の息子がなにか誇り高いことをしたときの父親のような凛々しい表情でガイを見た。
「………?」
だがガイにはそんな余裕はなく、がなんの目的でガイを真夜中に起こしたのかが理解出来ず、困惑した瞳でを見た。
「ごめんね、こんな夜中に起こしちゃって。」
は謝ってから、
「…お風呂、入ろうと思って。」
ガイの表情を明るくすることを、微笑んで言った。
水を高い位置から落とすな。
言葉を発するな。
そのことを言いつけられたガイはの後ろを一定の距離を保ちつつ、暗い廊下を風呂場に向かって歩いていた。
「悪いけど、電気はつけられない。暗いから気をつけて。」
あるドアの前で立ち止まったが振り返ってガイに忠告する。
そしてガイにドアを開けて中に入るよう促す。ガイは促されるままにドアを開け、中に入った。
しかしガイが自然に閉めようとしたドアは止められる。なにごとかと振り返ると、がドアを開けて中に入って来た。
ガイは小さい呻き声をあげ、から距離をとる。が、その背中は脱衣場の壁にすぐに当たってしまった。
「…も入るのか?」
「外に居たら見つかっちゃうでしょ。」
「確かにそうだが………」
ほら早く脱ぎなさい。はうろたえるガイには構わず言う。
「…じ、女性の前で服を脱ぐのは……」
「…それは、私は目、逸らすから。」
と言って、はガイに背中を向ける。
「――〜っ…。」
ガイはまだ後ろ髪を引かれつつも、服を脱ぎ始める。
そして脱ぎ終わった頃、が背中を向けたまま、服はそのカゴの中に入れてくれればいいから、とガイのすぐ横のカゴを指して言い、ガイはその言葉を受けてカゴの中に服を入れ、無言で中へと入って行った。
もやはり無言だった。
**
「その理由は――、」
ガイがベッドに、に、近付いて来る。
はそのことに対する悪寒に身体をびくりと震わせた。
「――、お前だ。」
そしてガイの口から発せられた言葉。その言葉で完全にの余裕は失われた。
「…な、に…。」
「……。」
ガイの碧い目がをただ見つめる。
その瞳に何故か恐怖を感じたは短く悲鳴をあげ、目の前の男の身体を拒絶するように押し退けようとした。
が、ガイはその手を掴んでいとも簡単に止める。
はガイを見た。
「…ねえ、ガイ…?」
「…――、」
そして目の前の少女の名前を呼んだ直後、そのことにがびくりと身を竦ませた直後、ガイの身体からなにかがふっ、と抜けるようにして、ガイは言葉なくの膝の上に、倒れた。
「――…?」
は膝の上の男を不審そうに見る。
気を失って、いた。