「ちょっと待っ…て!」
 はさも焦っているように声を出すと、ガイに向けて、
「これからはなにがあっても声を出しちゃ駄目!」
 と、小さく、本当に小さく命令する。
 そしてガイが頷くと同時にガイの身体を部屋の隅のクローゼットに押し込み扉を閉めた。
「あーもう!リセットしてやる!」
 そして今度は部屋の外まで聞こえるようにそう言うと、テレビのスイッチをつけに走り、その側にあるプレイステーション2の電源ボタンを押した。
「はぁー…、なによこのゲーム!」
 わざとらしい溜め息と共に悪態をつき、母親の様子を伺う。既にドアを叩く音はやんでいた。
「えっと、それで、なんだっけ?お母さん。」
 そしてまるで何事もなかったかのように母親に尋ねると、母親がわざとらしく笑い、なんでもないのよ、と遠ざかって行くのが判った。
 は念のためドアを開けに行き、そこで廊下を見回す。母親は居なかった。
「ふぅ――……。」
 それを確認し、はここでようやく気を抜く。そしてドアを閉めると、部屋の中のクローゼットに向かった。
「……もう大丈夫よ。」
 すぐ前で言ってやるが、返事はない。
「……?どうしたの?大丈夫だってば。」
 そのことには眉をひそめ、疑問を抱く。
「ねぇ――」
 ついにはクローゼットの扉を開ける。すると中にいたガイがわっと声をあげ、転がるように出て来た。
「…もう、大丈夫なのか?」
 から距離をとり、確かめるように言ったガイに、は無言で頷く。するとガイはほっとして胸を撫で下ろした。
「にしてもどうやって――」
 あの危機を脱することが出来たんだ、とのガイの問いに、
「ゲームやって癇癪起こして怒鳴ったってことにした。」
 と、はなんでもないことのように言う。ガイはへえ、と感心したように相槌を打った。
「……それで、さっきまでの話なんだけど、」
 そして早速話を戻そうとするガイに、は首を振り、
「――きっとこの時間に来たってことは、もう昼ご飯なんだと思う。…私、行って来る。」
 言って、ガイの返事は待たずに部屋を出た。
 ばたん。
 無機質にドアが閉まる。はドアの前で立ち止まる。
「―――……。」
 そして奥歯の根が合わないのを感じ取っていた。