はなにも言わなかった。ただ黙り、ガイのすることを見ていた。
 これじゃまるで本の中の人間みたいじゃないか。サイトで読めた平仮名をもとに集めた情報に対する感想を、ガイは述べた。その感想はほとんど当たっていたが、やはりはなにも言わなかった。
 なにか言ってくれよ。ガイが懇願する。それでもはなにも言わなかった。
 そのことが今のガイにとってどれだけ残酷なのかを、は知っていた。それでもはなにも言わなかった。
 俺は一体誰なんだ。ガイは力なく床に座り込んだ。
 はなにも言わなかった。ただガイを見ていた。




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 ガイは座り込み、震えていた。はその横に座り、ガイを見ていた。
「――俺は一体、誰…、なんだ。」
「…………。」
「…全て偽者…なのか?…世界自体が存在しない…のか?」
「…………。」
 ガイはの目を見る。
「俺は、存在しない存在なのか…?」
「……違う、ここに居る。」
「オールドラントは?」
「…………。」
 は答えない。
「ルークは?」
「…………。」
 は答えない。
「…俺、は…?」
「……ここに居る。」
 は答えた。
「……ずっと…、俺は、」
 そこでガイの言葉は止まる。そして膝に顔をうずめ、沈黙が流れた。


 ………………


 沈黙は流れる。


 ………………


 ガイは顔を上げ、を見た。
「…、一度だけでいいから、」
「…………。」
「…一度だけでいいから、」
「……。」
「――名前を、呼んでくれないか…?」
「…。」
 は答えない。
 答えずに、目を細めて、口の端をあげて、笑顔を作って、ガイを見る。
「……どうして?」
 そして訊いた。
「……。」
 ガイはしばらく経ってから、
「…なんでもない。忘れてくれ。」
 と、首を振る。
「うん、判った。」
 はそう返事をして、また黙る。
「…俺は、生きているんだろうか。」
 に向けられたわけではない呟きに、
「うん、ここに生きている。」
 律義に答え、そっと肩に手を触れた。もう既に震えていたガイの身体は、やはり震え続ける。
「大丈夫、ここに生きている。」
 そしてさらに近寄り、ガイの身体を抱き寄せた。
 震えていたガイの身体は、やはり震え続ける。
 は黙って、時折漏れる呟きに答え続ける。
「大丈夫、あなたはここに生きている。」