「お、じゃねーか。」


 私は声のした方へと顔を向ける。この海賊船の船長、ファルガ殿だ。

「お久しぶり、ファルガ殿。お邪魔させて頂いているわ。」
「………いいのか?」
「ええ。」

 神妙な様子で尋ねるファルガ殿に、落ち着いて頷きだけを返す。
 椅子に座ったままの姿勢は崩さずに、私は目を船窓に切り取られた外へと向けた。空に向かって手を伸ばしても、無機質なガラスにこつんと当たるだけである。

 “時のたまご”を手に、セルジュはHOME世界のオパーサの浜へと旅立って行った。私は天下無敵号に残っている。

「最後を見届けたいと願うのは、皆も同じでしょう?セルジュと、ずっと彼を導いてきたキッドと、彼を引っ張ってきたカーシュと。最高のパーティじゃない。」
「…………。」
「私はここで待っているわ。」

 不思議と落ち着く心を胸に、私は静かに話す。
「これでいいの。戦いは終わる。」




「……ここからでは、オパーサの浜は見えないのね。」
 ここから見ることはできるのは、エルニドの海の青と、エルニドの空の青だけだ。どちらも遥か彼方まで続いていて、限りは互いに混ざり合って溶けて、それでも続いている。
 どこまでも、どこまでも。

「よーし、それなら、浜へ向かって出発だ!」
 例え『見え』たとしても、セルジュ達の姿を見つけることはできないのだが。ファルガ殿が伝令管から船員達に指示を送って、船はゆっくりと進むことを始めた。








 そんなとき、ふと、私の耳に、音が届いた。
 波の音でない。風の音でない。鳥の音でない。

 ぽろん、ぽろん、と、その音は、私の心に届いていた。

 ――ぽろん、ぽろん、ぽろん、……


 きれいなメロディが心に奏でられる。ひとつ鳴って、高く鳴って、優しく低く鳴って、ひときわ高く鳴って、……
 私は心地よい気持ちで、彼が奏でるそのメロディに聴き入った。

 気付いたときには剣を取っていて、音楽の道など遥か昔に閉ざしてしまった私だけれど、
 この鈴とも鐘ともつかない不思議な音は、素直に、

 ――ああ、きれいだな、

 と、感じた。