鎧を身に着けずに、カーシュ様の前に立つ、私。カーシュ様に“女性”として扱われる私。
 好きです、愛しております、と、私は言う。私の意識の中ですらも、カーシュ様は困ったような反応をされてしまう。一歩引くカーシュ様に、私は一歩踏み出して、愛しております、と。
 そんな私の立ち振る舞いは、本当に優雅だ。それは騎士団に入団してから私が失ってしまった、しとやかさ、というものだった。猛攻しきりの告白であるというのに、そこからは微塵の野蛮さも感じさせない。
 私が実は、憧れているものだ。私はそんな女性になりたい。
 美しく、優雅で、上品で、しとやかで、けれども情熱的で積極的な、そう、この平凡で幸せな日常に愛と情熱を持って喝を入れることのできる、そんな女性に。






「………………ハッ。」
 私は目を開けた。まっすぐ先に見える天井は、区切られていた。私は甲冑を被っていた。
 上半身を起こすとがしゃんという音もしたから、私は鎧も身につけているのだろう。つまり、ええと、要するに、格好は変わっていないということだ。普段どおりの、そう、私がカーシュ様の前に姿を現してもいい格好。
 だのに私の身体はベッドにある。それも、上半身の動きに合わせて白いものがずり落ちたから、シーツをかけられて、だ。
 なんとなく理解の及ばないままで辺りを見回すと、室内の一人と見えない目が合った。相手も私と同様に、鎧姿だった。
 目が覚めたのか良かったと彼は言う。声に聞き覚えのある彼が居るということから、私は今私の居る部屋が、普段私の寝起きする、私を含む騎士団下級兵の数人に与えられた部屋だということに気付いた。

『こいつを引き取ってくれ!』

 カーシュ様が部屋にいらっしゃったそうだ。小脇には気絶した騎士団下級兵、私を抱えて。
 彼の簡単な説明に、私ははっとして慌てて甲冑を押さえる。するとその様子を見た、私という人間をよく知る彼は、大丈夫鎧は身につけたままだった、と付け加えてくれた。ほっとする。

 そしてその直後には、気絶した私をカーシュ様から引き取り、ベッドまで運び、心配してくれていたという彼に対するそれよりも先に、カーシュ様の優しさへの感謝、感動、感激、喜び、嬉しさが私の心の中で爆発した。
 頬が熱くなり気分が高揚して、居ても立っても居られなくなる。

「ありがとう、後は任せた!」

 何を「任せる」のかも特には考えないままそう言って、私は未だ痛みを伴う不調を訴え続ける頭も無視して、ベッドから飛び降り半ばぶつかるように扉を開け、廊下を一目散に駆けて行った。
 向かうは四天王の、カーシュ様の、私室。

 扉を開ける。もう何度も同じ動作を繰り返しすぎて、機械的に、かつ迅速に、最も効率の良い方法でこなせるようになっていた。扉の取っ手もすっかり手になじんで、まるで私の第二の剣のようだ。


「カーシュ様ッ!このわたくしめと――ッ」


 違う間違えた。先に言うのはこちらではない。


「カーシュ様ッ!大浴場で倒れたわたくしめをお助け下さったとのこと、まことに申し訳ございません、ありがたく存じます!」

 これで間違いない。
 私は言葉と同時にお辞儀をして、そして顔を上げて、いつもの言葉を口にした。部屋の中でまたかと呆れるカーシュ様に、もうこれまでに何度繰り返したかも判らないことを申し上げた。


「カーシュ様ッ!このわたくしめと勝負して下さいませ!」